中小企業のオフィスで出来るデジタルトランスフォーメーション(DX)の事例

2020.07.03

デジタルトランスフォーメーションという用語を知っていますか。DXと略されるこの概念は、企業のこれからの経済活動において必須と言われています。特にウィズコロナ/アフターコロナの世になった今日ではさかんに使われるようになりました。

大企業においては浸透しているDX。一方、メディアやブログで紹介される事例は大規模になりがちで、リソースに余裕の無い中小企業においては、まだあまり導入されていないという現実があります。

しかしここで注意したいのは、デジタルトランスフォーメーション=大規模な予算や時間を投じる訳ではないということです。

本稿では、中小企業でも比較的簡単に出来るDXの事例を紹介しましょう

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは

DXとは?

おさらいですが、DXは『ITによって人々の生活がより良い方向に向かって進化していく』という概念であり、2004年にスウェーデンにあるウメオ大学の教授エリック・ストルターマン氏によって提唱されました。DXと同様の意味を持つデジタルシフトという単語も存在しますが、両方とも同じものを指すという認識で差し支えありません。

現在ではビジネス用語として多くの場合は用いられており、DXを利用することによって会社経営の業績やターゲットを変化させるという意味で使われています

日本では2018年に経済産業省がDXに対するガイドラインを作成しており、国家がDXの導入を政府、民間に浸透させるよう積極的に活動しています。

DXにはペーパーレス化やデータ入力の効率化などメリットが多く存在しますが、導入費用が高価な面や運用スタッフの学習時間コストが必要などデメリットやネガティブな面も目立ちます。そのためどうしてもDXの導入は大企業ばかりが目立ち、中小企業は導入をためらってしまうことがあるのですが、デメリットやネガティブな部分を認識した上で、それでも導入することによって成功している中小企業があることは見逃せません。

DXの導入リスクを承知しつつ、早期導入した企業は多くの成功を生み出しています。

中小企業のオフィスで出来るDXの事例・10選

オフィス

この章ではDXを導入して成功した中小企業の事例を10件紹介します。この章を読むことによってDXを導入することで得られる成果について具体的にイメージできるでしょう。

CRM

請求書等の情報を紙で管理してきたこの会社は、請求漏れや対応漏れなどが起こらないようスタッフが目視確認することによって管理を続けてきましたが、問い合わせ数が急増したことによって現状での管理が難しくなりました。

また情報の共有を電話や口頭によっての指示が中心になっていたため、話していないといった水掛け論やそもそも該当する情報を知らなかったなど情報伝達に齟齬や漏れといった致命的な問題が生じることもありました

紙をベースにしたアナログでの対応は難しいと判断した会社は、サイボウズ社製のCRMであるKintoneを導入することに。Kintoneの機能である社内SNSや案件管理アプリを使用することによって、社内間のメッセージやスケジュールをオンラインで管理することができ、案件やクレーム、業務進捗もスタッフ間で共有できるようになりました

情報を目で確認できることや履歴が残るといったデータならではの特性もあり情報伝達のミスが劇的に減少。また、これらの機能はPCやスマホで使えるため、いつでもどこでも自社の状態を確認可能といった点もスタッフの間で好評でした。

また、紙での書類管理からデータによる管理に切り替えることによって、効率化以外にも新人スタッフの成長を早めるという見逃せない効果がありました。案件の履歴が残るため、入社したてのスタッフも案件履歴を参考に行動することによって、早い段階で戦力として活躍できるように。

新人スタッフの成長促進はDX導入当初は想定していない事でしたが、結果的に非常に業務に対して貢献してくれました。

ラズベリーパイ

ラズベリーパイ

工業製品メーカーであるこの会社は、取引先から製品の増産を依頼された時に生産ラインを増設する資金がないため、何とか依頼に応えられるよう考慮したところ、1つあたりの生産ラインの稼働率を向上させることによって生産性を上げられないかとDXの導入を検討しました。

しかし、大規模なシステムを導入するだけの資金が会社にはありません。そのため、自前でDXを用意しようと簡易的なIoTシステムの構築に利用できるラズベリーパイを購入。自作でラズベリーパイをセンサーに工作して生産ラインに組み込みました。

DXを導入することで各ラインの生産数や停止時間を正確に把握できるようになり、結果的に停止時間を短縮することによって生産数の向上に成功。製品の質を担保しつつ納期を短縮できるようになりました。

クラウド上でのデータ管理

介護事業を行っているこの会社では、介護業界特有の問題である人材不足及びスタッフの離職に悩んでいました。

この会社では事務処理に紙を使っており、スタッフに対する利用者のケアプランの周知方法も事務処理同様に紙を使用して指示を与えていました。そのため、毎日コピーする作業が多く、かつ書類を保管しておくためのスペースが不足するという事態に陥ることに。
また、紙での事務作業はスタッフの負荷も大きく、スタッフの離職原因にもなっていました。

経営陣は現状を変えるために紙を使用した管理を取りやめ、クラウドシステムを導入し、データによって管理する方法を採用。結果的に業務のスピードやクオリティーが高まり、利用者の状態をリアルタイムにスタッフ全員で共有できるだけではなく、利用者のバイタルチェックなど介護事業特有かつ必須の作業も効率的に行えるようになりました。

DXを導入することによって、スタッフの負荷も減ったため、DX導入前の離職率が20%以上だったのに対して導入後は10%以下と大幅に離職率を減らすことが成功しました。

システムのクラウド移行

自社所有のサーバーおよびシステムで業務を運用していたこの会社は、東日本大震災を経験してデータ紛失の危機にさらされました。

幸いデータを失うことはありませんでしたが、震災以降会社は常にデータ消失に関する不安感が拭うことができなくなりました

そこで、災害によるデータ消失のリスクを回避するために基幹システムをクラウドに移行することに決定。

クラウドシステムの利用はデータロストのリスクを無くすだけではなく、自社サーバー運用に比べてコストがかからず、セキュリティも強固という面があります。

また、自社サーバーで運用していた時代にはシステム担当者に大きな負担がかかっていましたが、クラウドによる管理に移行したことで負担を減らすことが可能になりました。

顧客接点クラウド

自動車整備を行っているこの会社では、日常的にお客様から車に関するトラブルの報告や電話が鳴り響いていました。トラブルに対してすぐ対応するためには、修理の履歴や顧客の情報などをすぐさま確認する必要があります。しかし、顧客情報の管理が煩雑になってしまっており、情報をすぐに取り出して確認することが難しい現状がありました。

また、現場はお客様のトラブルに対して先回りして提案することを重要視していましたが、すぐに資料を手元に用意できない今の状態ではお客様から言われたトラブルに合わせた対応しか出来ていません。

そこで現状を打破すべくお客様からの電話着信時に顧客情報をモニターに出力してくれるシンカ社製の顧客接点クラウド・カイクラの導入を決断しました。

カイクラを導入したことによって電話がかかってきたお客様の情報をすぐさま手元に表示することができるようになったため、お客様を待たせることもなく、すぐに対応が出来るようになりました

また、販売した商品情報を参照できるため、相手のトラブルに先回りして提案するという現場での目標も達成。

さらに履歴を簡単に残せるためトラブル対応をスタッフ間で引き継ぐことが可能になり、1つのトラブルが個人スタッフに依存してしまうという属人化を防ぐ手段としても有効でした。

カイクラは電話対応が多い、この企業において大幅な効率化に貢献したのです。

IoTセンサー

工場のIoTセンサーのイメージ

日本国内と海外に拠点を持つこの会社は拠点が点々としているため、生産性が低いという点がネックになっていました。また生産性の低さから夜間残業が発生しており、従業員の不満も問題でした。

そこでIoTセンサーを工場に設置することによって、すでに稼働状況を把握できるようDXを導入。その活動の一環で生産性を低くしている原因を発見することができ、対処をすることによって生産ラインの効率が改善したほか、夜間残業もなくすことに成功しました。

夜間残業の多さから従業員の離職が問題になっていましたが、問題が解決したことによって離職率を低下させることに成功。

生産能力の向上と従業員の定着を同時に達成できたのは、DXだからできたことだといえるでしょう。

記事作成のロボット

スタートアップ企業の情報を中心に扱うこのメディアは、100社以上のインタビュー記事を掲載しています。しかし経営者に対するインタビューやプレスリリースなど多岐にわたる記事の掲載は、対象となる人物に対してインタビューを交えなければいけません。そして記事の作成は非常に時間のかかる作業でした

そこで当該メディアはインタビュー記事の作成を自動化しようと考えDXの導入を決定。サイト上にインタビュー取材を行うための専用フォームを設置して、自動的に記事を作成するためのロボットを開発。専用フォームとロボットを利用して自動で記事を起こせるようにしました。

この工夫により従来120分かかっていた取材記事の公開が約5分で行えるようになりました。また、DXを導入することによって属人化しやすいインタビュー記事作成をスタッフなら誰にでもできる作業に変化させることに成功したことも当該メディアにとって大きな利点でした。

AI OCR

AI OCRのイメージ

このアパレルショップでは採寸をメインの業務にしています。ここでは月間1000件以上もの採寸したデータを全てスタッフがExcelに手入力していました。特に繁忙期は残業してデータを入力することが大半で、残業時間が多くなる点が問題視されていました。

現状を変えるために経営陣はDXの導入を検討し、手書き文字認識AI OCRを採用しました。採寸データは手書きになるため、手書き文字をしっかり認識する必要があります。そこで認識率99%以上の製品をチョイスしました。

DXの導入で得られた結果は大きく、1件あたり15分程度かけていたデータ入力が約2分で済むようになりました。結果として月間200時間弱の業務削減に成功し、問題視されていた残業時間も少なくなり、DX導入は課題解決に大きく貢献しました。

●関連記事:AI OCRとは?

RPA

RPAソフトをメインに販売しているIT企業であるこの会社は、人事部門での労務管理業務に多くの時間を割いていました。特に勤怠の管理に関しては比較的簡単な作業の連続ではありましたが、間違いは許されないため非常に神経を使うことで担当スタッフの精神的な疲弊と時間がかかってしまう点が問題になっていました。

そこでこの会社はDXの導入を決断。自社製RPAによる自動化に挑戦し、約20体のロボットを導入することによって業務効率の改善を狙いました。

DXの導入による作業の結果はスタッフのケアレスミスを無くしただけではなく、作業時間を約1年間で500時間も削減できたという大快挙

浮いた時間は他の業務にあてることができるため一人当たりの仕事の幅も広くなり、かつ残業時間も抑えることに成功しました。

コミュニケーション

不動産業を営んでいるこの会社は、物件を視察する時には本社にいるスタッフに電話やメールなどで連絡を取って社内システムに保管してある関連資料のファイルを送ってもらう必要がありました。

これらの作業は手間になり、スタッフの労働時間延長や精神的なストレスを助長する要因になっていました。

これらの問題を解決するため会社上層部はDX導入を決断。物件を視察するスタッフが社内に連絡することなく資料を得られるようシステムを構築することによって、年間約1900時間もの作業時間を削減することに成功

DXを導入する前までは手間がかかるという一点から心理的に視察に行くことができなかった物件にも積極的に関わることができるようになったため、機会損失もカバーすることが可能になりました。

この会社は不動産業務をオートメーション化したことは非常に有用であったと述べており、今後も積極的にDXを使用した革新的な挑戦を続けていきたいと話しています。

まとめ

DXを導入した企業のイメージ

DXは経済産業省がガイドラインを策定しているように日本でこれから企業活動を行う上で非常に重要な要素になります。一部ではDXを導入できないとこれからの企業活動が難しいとさえいわれています。

今後は大企業だけではなく中小企業も積極的にDXを導入していく必要が出てくるでしょうし、この記事で紹介した10社の事例のようにDXを導入していく中小企業はより増えていくことでしょう。

ここで紹介したDX導入事例を参考にして、DXとは何か、どのように利用できるのかということの参考にしてもらえれば幸いです。