文書のライフサイクルとは?プロセスを解説

2019.07.17

文書には「ライフサイクル」と言うものがあるのをご存知ですか?ただし、ここで言う「文書」とは、企業などで作成するビジネス文書のことを指しています

「ライフサイクル」は、一般的には、「生まれてから死ぬまでの人の一生」を意味する言葉としてとらえられています。とすると「文書のライフサイクル」というのは、「文書の一生」を意味していることになります。これを聞いて、「文書に一生などあるのだろうか」と思われる方も多いのではないでしょうか。

今回は、この文書のライフサイクルを取り上げて、それが何を意味しているのか、そのライフサイクルはどんなフェーズから成り立っているのか、さらには、それを管理するための理想的な方法などについて説明します。

文書のライフサイクルとは

まず、ここでは、文書のライフサイクルの意味と定義、その概念の起源、対象となる文書、構成などについて説明します。

意味・定義

文書の束

JIS Z 6016:2008では、文書のライフサイクルのことを「文書の寿命特性。又は文書を作成,登録,利用,保管・保存及び廃棄する一連のプロセスの全期間。」と定義しています。そして、JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)は、「文書の寿命特性」のことを、「文書を使う頻度が時間と共に変化すること」だと言っています。

これは、文書は必要があって作成されるわけですが、使用頻度が高い期間は限られていて、日にちが経つにつれて徐々に使用されなくなるということを言っています。もちろん、文書の種類や内容によっては、長年にわたって使用されるものもありますが、そういう場合でも、更新されたり改訂版などが出されたりして、オリジナルの文書はその時点で使用されなくなります。

どこの企業でも、文書管理を実践していますが、その際に大切なことは、文書のライフサイクルに沿って適切に文書管理が行われているかどうかということです。どこも、法的に定められているもの以外は、その企業独自のルールを設けて管理しているようですが、保管~保存、さらに廃棄に至っては、あいまいになっているところが多く見られます。

文書の中には、その企業の資産や機密情報になり得るものもあります。法的に保存期間が2年~10年と定められているものもあれば、廃棄せずに永久保存を義務付けられているものもあります。どれも同じライフサイクルでいいとは限りません。その文書ごとに適切なライフサイクルを設定して、正しく管理をする必要があります。

起源

棚

文書のライフサイクルは、JIS Z 6016:「紙文書及びマイクロフィルム文書の電子化プロセス」の規格の中で、正式に「紙文書及びマイクロフィルム文書のライフサイクルにおける電子化,保管※,活用,廃棄,品質管理,セキュリティ対策など一連の電子化プロセスについて規定する」と、そのプロセスが規定されています。また、同規格では、「意味・定義」でも述べたように、文書のライフサイクルが「文書の寿命特性。又は文書を作成,登録,利用,保管・保存及び廃棄する一連のプロセスの全期間」と定義されています。これが文書のライフサイクルの概念の起源だと考えられます

※この規格は、元々は2003年に制定されたもので、その時は、「保管」という言葉が入っていませんでした。この「保管」は、2008年の改定時に追加された言葉です。

対象となる資料

書面に記入する人

では、文書のライフサイクルに沿って管理が必要となる文書、つまり文書管理の対象となる文書にはどんなものがあるのでしょう。

文書管理の対象となる文書は、大きく分けると次の5種類のいずれかに該当します。

法定保存文書

法律で保存することを定められた、取り扱いに最も注意を要する文書です。業種を問わず、税務関係労働関連の書類などがこれに該当します。

以下に、どんな書類があるのか、全業種共通の法定文書と金融業における法定文書の例を、JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)公式サイトの「文書情報管理のいろは」の「2.文書情報マネジメントの基本」から一部抜粋して記載します。

法定文書の例(共通文書)
  • 経理:①取引に関する帳簿書類(見積書、納品書、請求書、契約書、領収書など)(法人税法126条1項)
  • 人事:①雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類(出勤簿、給与台帳等)(労働基準法109条)
  • 総務:①株主総会議事録・総会議事録の謄本(会社法318条2、3項)
法定文書の例(金融業)

営業

  • ①保険の申込書(申込書は、取引に関する帳簿書類である)(保存責任者は保険業者)(法人税法126条1項)
  •   

  • ②当該外国銀行支店に係る外国銀行または外国銀行持株会社に係る営業の概況並びに貸借対照表及び損益計算書(保存責任者は銀行業を営む外国銀行支店)(銀行法施行規則19の2条4項)
  • ③契約条件変更書(保存責任者は保険業の変更会社)(保険業法225の3条1項)

経理

  • ①債務者ごとの業務に関する帳簿(賃金元帳、預金元帳)(保存責任者は貸金業者)(貸金業の規制等に関する法律19条)
  • ②信託受益権販売業務に関する帳簿書類(保存責任者は信託受益権販売業を営む金融機関)(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律4条3項)
  • ③全国連合会の発行する債券の原簿(保存責任者は全国連合会の理事)(信用金庫法54の10条1項)

国際規格によって記録が義務付けられている書類

ISO9001(ISO¬=国際標準化機構)(JIS Q 9001)(一貫したサービスと製品を提供し、より高い顧客満足を得るための品質マネジメントの国際規格)、ISO14001(JIS Q 14001)(環境を保護し、より高い環境パフォーマンスを提供するための環境マネジメントシステムの国際規格)、ISO27001(JIS Q 27001)(情報を守り、より完全なセキュリティーを実施しながらその情報の有効活用を可能にするための情報セキュリティーマネジメントシステムの国際規格)など、企業がその事業を展開させるうえで認証の取得が推奨されている国際規格によって義務付けられている書類。これには、その企業の管理システムや活動の実績などを文書化したものなどが含まれます。

営業秘密に関する文書

不正競争防止法によって保護される情報である営業秘密は、「不正競争防止法第2条第6項」によって、以下のように定義されています。

「この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」

この定義では、営業秘密として認められるための条件として、「秘密として管理されている」こと(秘密管理性)、「生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」であること(有用性)、「公然と知られていないもの」であること(非公知性)、という3つが示されています。

この不正競争防止法は、手続きなしで営業秘密を強力に守ってくれるものですが、そのためにはこの3つの要件のうち、「秘密管理性」と「非公知性」が絶対に満たされている必要があります。そのために、秘密保持契約書の作成は必要不可欠であるとされています。

内部統制のための記録管理に伴う文書

2006年6月に成立・公布された金融商品取引法によって、内部統制の整備強化が義務付けられました。内部統制とは、社内の不正を防止したり見つけ出したりして、業務が適正に行われるようにするシステムのことです。
具体的には、企業の業務や内部管理の実態、取締役会の状況などを記録して、それを会計監査でチェックするというものです。これには、経理の帳簿や報告書などもすべて含まれます。つまり、内部統制を遂行するには、文書の記録は不可欠であるということです。この内部統制のための記録は、その企業の内部管理のために必要であると同時に、社外への説明責任を果たすためにもなくてはならないものとされています。

その他、企業が生き残るために必要な文書

例えば、製造物責任法(PL法)によって、製品に問題があることが判明し消費者が製造元を訴えた際、その企業は製造に問題がなかったことを証明しなければならなくなっています。それには、その製品の製造・加工・出荷・販売の記録や品質管理データを提示しなければなりません。つまり、それらを記録し保存しておく必要があるということです。

ほかにも、災害などの緊急事態が発生した場合に、事業を継続させていくことができるように、平常時にBCP(事業継続計画)を立てて記録保存しておく必要があります。これには、その企業の事業継続に必要なデータもすべて保存しておかねばなりません。また、今まで構築し守ってきた技術やノウハウなどもすべて文書化し記録して保存しておく必要があります。

構成

悩む女性

「意味・定義」の説でも述べましたが、文書のライフサイクルは、「文書を作成,登録,利用,保管・保存及び廃棄する一連のプロセスの全期間」と定義されています。つまり、文書のライフサイクルを構成しているフェーズには、「作成」、「登録」、「利用」、「保管・保存」、「廃棄」の5つがあると言うことです。

ただし、これは原則であって、実際には、企業によってはフェーズの呼び名が違ったり、6フェーズで構成していたりすることがあります。例えば、「発生」、「伝達」、「活用」、「保管」、「保存」、「廃棄」とするところもあれば、「作成」、「処理」、「保管」、「保存」、「廃棄」と定義しているところもあります。

文書のライフサイクルを知っておくメリット

女性

紙ベースの書類が机の上に山積みになっていたり、バインダーにファイリングをして棚に保管しているものの、その棚がいっぱいになってしまって保管する場所に困っていたり、必要な書類をすぐに見つけることができない、といった問題などに多くの企業が頭を悩ませています。また、紙ベースの文書を電子化したものの、それを手当たり次第にファイルサーバーに入れているために、結局必要なデータをすぐに引き出せないといった問題を抱えている企業も少なくありません。これでは作業の効率化は図れず、生産性は落ちる一方になってしまいます。

こういった問題を解決するために必要なのが文書管理という概念です。文書管理とは、その文書の種類に応じてきちんと整理し、適切に保管し、必要な時にすぐに取り出せるようにしておくことです。これには、不要になった文書は、適切な時期に破棄して、いつまでもためこまないようにするという処理も含まれています。

この文書管理は、それぞれの文書のライフサイクルを見据えて行うことで、非常に効果的にその役目を果たすことが可能になります。つまり、文書のライフサイクルに関する知識は、文書管理を行ううえで必要不可欠であるということです。

文書管理システムといったサービスも普及しはじめています。これは、文書を電子化してそのライフサイクルに沿って保管し管理をしてくれるシステムです。中には、廃棄期限がきたら自動的に廃棄してくれるシステムもできているようです。文書のライフサイクルを知っていれば、こういったシステムを有効に活用することができ、作業の効率化を図ることが可能になります。

各フェーズの紹介

ここでは、「作成」、「活用」、「保管」、「保存」、「廃棄」という、多くの企業で行われている業務になじみのある言葉を使って、それぞれのフェーズについて解説していきます。

作成

PC業務

企業において、文書が新規に作成されたり、郵送されたり、メールやインターネットを介して外部からいろいろなデータを受け取ったりダウンロードしたりするフェーズです。この段階では、その文書やデータの管理は、ほとんどの場合、担当部署の担当者に任されます。

またこのフェーズで作成(入手)した文書は、今後、加筆や変更などの更新が頻繁に行われることもあるため、電子化してデジタルデータで記録しておくことをお勧めします。パソコンで作成したりインターネットからダウンロードした文書は、最初からデジタルデータとして作成されるために問題はありませんが、手書きの文書などの場合は、スキャナーとOCRソフトがあればデジタルデータとして取り込むことができます

活用

文書活用シーン

業務において、文書の目的に応じた形態で利用されるフェーズです。例えば、決裁、告知通達、契約などのために、掲示配布回覧閲覧などが行われます。

「作成」のフェーズで文書が電子化されていると、この「活用」のフェーズでの処理を非常に効率よく行うことができます。もしこの段階で文書の電子化が行われていない場合は、早急にデジタルデータに変換することをお勧めします。デジタルデータ化すると、そのデータは、グループウェアや社内wikiなどのイントラネットを介することで社内の誰もが、個人のデスクトップやタブレットで閲覧や検索を行うことが可能になります。それによって、紙ベースの書類を配布したり掲示したり回覧する手間が省け、ペーパーレスにもつながって業務の効率化とコストダウンを図ることができます。

保管

本棚

文書によっては、「活用」時期が過ぎても度々必要とされるものがあります。そういった時に、すぐに取り出したり閲覧ができたりするように、きちんと整理して「保管」しておくフェーズです。この保管を効率的に行うためには、前もって、書類の種類ごとに保管の期間や場所に関するルールを決め、それを全社員に周知しておく必要があります。

また、このフェーズが該当する書類は、電子化されていれば、保管場所に困ることもなく、また必要な時になかなか見つからないといった問題も生じません。

保存

保管庫

「保管」期間を終え、もう利用しないと思われる文書のうち、法定保存文書をその保存期限が満了するまでの間「保存」しておくフェーズです。

法定保存文書には、永久保存が定められているものもあって、紙ベースの文書の場合、保存する場所がなくなってしまうといった問題が生じることがあります。その場合は、別の場所にある倉庫に保存したり、貸倉庫を借りたりして保存することになります。
電子化しておけばそういった問題は回避することができます

廃棄

処分された文書

法定で定められた保存期限が過ぎた文書を、情報漏洩などの恐れがない方法で適切に「廃棄」するフェーズです。この場合も、廃棄する方法について前もってルールを定めておく必要があります。

電子化について

プロ

文書のライフサイクルに沿って文書管理を行う際に、第1フェーズの「作成」以外で問題となるのが、文書の電子化です。電子化を行ってデジタルデータにした文書は、保管場所や検索にかかわる問題を回避することができますが、既存の紙ベースの文書をすべて電子化するとなると、膨大な手間と時間がかかって本来の作業に支障をきたし、生産性が著しく低下します。

そういった場合、電子化代行業者に依頼するという方法もあります。コストが心配な場合は、法定保存文書将来的に残しておきたいといった文書だけを選んで電子化代行業者に依頼することもできます

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まとめ

ゴール

文書のライフサイクルを見据えた文書管理を正しく行えば、快適な作業環境が提供され、業務の効率化や生産性の向上、コストダウン、さらには危機管理も可能になります。そして、その文書のライフサイクルにおいて、重要なキーワードが電子化です。

現在、多くの企業で文書のデータ化に取り組みはじめています。これは、2005年に施行された「e-文書法」によって、紙ベースで保存するように定められていた法定保存文書を電子データで保存することが認められたこともそのきっかけであると考えられていますが、もう1つ、文書管理の重要性に気づき、その文書管理をいかに適切かつ効率的に行うことができるかを検討した結果ではないかと思われます。

そういった企業のニーズに応えるべく、この先、いろいろな文書管理システムが進化しながら登場してくるでしょう。そのためにも、文書のライフサイクルに関して正しく理解しておきたいものです。