自費出版とは?企画出版との違いや費用も紹介
文章を書くことが好きで小説やエッセイを書き溜めている人ならば、書店に並んでいる書籍を見て、自分も一度くらい本を出してみたいものだ、と思ったことがあるはずです。
ひと昔前ならば、本を出すのは、著名な文学者や学者たち、というのが定番でした。今では、執筆に関しては素人の方々でも、自費出版という方法をとれば、だれでも自分の本を出版することができるようになりました。これには、出版技術の進化も大きく関係しています。
今回は、まず出版とは何か、出版にはどういったタイプがあるのかを説明したうえで、自費出版について、その他のタイプの出版との違い、メリットとデメリット、フロー、費用などについて説明します。
目次
そもそも出版とは?
本の出版とは簡単に言うと、文書や図画や写真などを印刷することによって書籍や雑誌を製作し発行して販売する一連の作業のことです。これに対して、文書や図画や写真などをデジタルデータに変換してコンパクトディスク(CD)などの記憶媒体に記録して販売したり、インターネットを介して販売したりするのが電子出版と呼ばれるものになります。
出版にはどんな形態があるの?
紙ベースの本の出版には、出版社が出版に関わる費用をすべて負担する企画出版(商業出版)と、著者が出版の費用を負担する自費出版の2つの形態があります。
以下に企画出版と自費出版の特徴について説明します。
企画出版
企画出版とは、出版社が企画を立ち上げ、その企画にもとづいて本を出版することです。著者への原稿料、デザインワークにかかる費用、製本費、宣伝・広告費など、出版にかかるすべての費用は出版社が負担します。また、販売費からは著者へ通常は10%前後の印税も支払われます。
企画出版は商業出版とも呼ばれますが、商品として世に売り出す本、つまり、どんな本でもいいというわけではなく、魅力があって多くの読者を獲得できるような本を出版することです。それには、まず、編集者が本の企画を練ることからスタートします。つまり、企画ありきの出版なのです。その企画は、企画会議にかけられて、どれだけの利益が得られるのかいろいろな視点でデータを分析し、本にして出版するに値する企画だ、と判断されてはじめて出版が決まります。
出版が決まると、その企画を出した編集者はその本の出版監督となり、著者への執筆依頼からデザインワーク、校正・校閲作業の調整など、思ったような本が出来上がるまでその一連の編集作業に携わります。これが企画出版が出版の王道だといわれる所以です。
企画出版についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
自費出版
企画出版に対して、自費出版とは、出版に関わる費用をすべて著者が負担する出版のことを言います。この自費出版は、出版社が商品として本を売って利益を得るための出版ではなく、著者が費用を出すのであれば、売れなくても出版社にとっては損失にはならないから出版するというもの、言い換えれば著者が出したいから出すという出版です。
自費出版には、いくつかのタイプがあります。そのタイプによっては、企画出版のように編集者による編集作業が行われるものもあれば、表紙などのデザインワークや校正・校閲など何から何まで個人で行わなければならないタイプもあります。また、タイプによっては、原稿の質を問われることがあり、出版社の求める水準に達していない場合は、出版社が抱えているライターによってリライトを行う場合もあります。
では、この自費出版の方法にはどういったタイプのものがあるのでしょう。
自費出版の方法とは?
自費出版には、次のように3通りの方法があります。
- 個人出版
- カスタム出版
- オンデマンド出版
以下で、これらの出版形態について詳しく説明します。
1. 個人出版
個人出版とは私家本出版とも言われている出版形態で、ISBN(アイ・エス・ビー・エヌ)コードを付けずに、また書店などに流通させることなく、著者の身内など狭い範囲に配布することを目的で本を作ることです。よく見られるのが「自分史」や写真や短歌などの「作品集」などです。
なお、ISBN(International Standard Book Number)コードとは国際標準図書番号のことで、「本の戸籍」とか「本のマイナンバー」などと呼ばれているものです。これは本の分類や検索などに欠かせないコードで、どの本も、その裏表紙に印刷されているバーコードの下に印字されています。
昔は自費出版というと、手刷りの原稿を糸で綴じて小冊子のようなものを作って発行していました。現在でも俳句や漫画などの同人誌の中には、自分たちで印刷と製本を行って配布しているものがよく見られます。このような手製の個人出版の場合は、費用はほとんどかかりません。
最近では、出版会社の中に自費出版部門のようなものを設けてそこで個人出版を扱っているところが増えています。自費出版専門の出版会社もあります。そういうところに頼むと、費用はかかりますが、手作りではなく、製本された1冊の本を作ることが可能です。この場合、原稿はもちろんのこと、表紙のデザインなどもすべて著者が作って出版社へ持ち込む必要があります。
出版社では、デザインワークや編集などは行いません。ただ中には、別途費用を出せば、オプションとしてデザインワークや編集を行ってくれる出版社もあるようです。この個人出版で作られた本は、流通されないためにすべて著者が買い取って、著者が自ら身近な人々へ販売または贈呈することになります。
2. カスタム出版
カスタム出版は、出版にかかる費用は著者が負担し、出版社は編集や販促活動の面で協力をするという出版形態です(契約によって内容は異なります)。著者の負担額は、契約によって50%だったり全額だったりと様々です。また、出版社によっては、このカスタム出版のことを「流通出版」、「協力出版」、「共同出版」などと呼ぶことがあります。出版社がビジネスとして手掛ける出版形態であることから、企業出版とも呼ばれます。
このカスタム出版の特徴は、個人出版と違い、本にISBNコードを付けて、書店やネットなどの流通にのせて販売するということです。
上記の「個人出版」で出来た本の読者は、著者の周囲のごくわずかな人たちだけですが、このカスタム出版では、本は正規ルートで取次を経由してリアルな書店やネット書店に配本・販売されるので、より多くの人々に読んでもらうことが可能になります。これが流通出版と呼ばれる所以です。
契約によっては、著者が書いた原稿について、出版社の担当編集者が文章や内容について細かくアドバイスをし、時にはリライトもかけます。原稿は書けないけど本は出したい、というクライアントを受け入れる出版社もあります。そういうクライアントの場合は、どんな本を出したいのかその人の意向を聞きながら、ライターをつけて原稿を書き上げていきます。
製作費はすべて著者が負担するとはいえ、出版社としては少しでも売れれば利益が出るので、編集者は著者と二人三脚でより魅力的な本を目指します。
しかしこのカスタム出版で気をつけなければならないことがあります。
・流通するといっておきながら、実際にはネット書店にのみ配本されており、書店への配本は一切無いというケース
・初版の発行部数に関して、書店に平積みにしなければ宣伝効果がでないと言い、最初から企画出版でもあり得ない程に多くの発行部数を持ちかけてくるというケース
・製作費は著者が出し、編集や広告宣伝において出版社が協力するという分担がカスタム出版の定義であるにも関わらず、こういった広告宣伝を出したい等と言って追加の費用を請求してくるケース
・印税に関して契約していたにもかかわらず、売り上げ数の報告が無く、印税の支払いも無いまま、その出版社が倒産してしまったというケース
などです。こういったトラブルに巻き込まれないためにも、カスタム出版を行う場合は、いろいろな経験者の話を聞いたり自分で調査したりして、中小でも実績のある経営状態のよい、誠実で信頼できる出版社を選ぶようにしたいものです。
3. オンデマンド出版
最近Amazonなどでも取り組みをはじめて話題を呼んでいるのがプリントオンデマンド(Print On Demand/POD)、つまりオンデマンド出版です。
このオンデマンド出版は、データさえあれば、出版社を介して高額な費用を出すことなく、お手頃な価格で自分の本を出版することができるというサービスです。またISBNコードも交付されます。
このオンデマンド出版のメリットは、1冊からでも必要な部数だけ印刷して製本し、紙ベースの書籍を販売することができるという点にあります。一方このサービスを提供している会社によっては、最初に10冊から100冊を作って、その後は、注文が入るごとに作るというものや、1冊から作って販売することができるというものなど、さまざまな条件があります。
しかしこのオンデマンド出版の場合は、個人出版のように編集やデザインワークは著者自身が行わなければなりません。中には、表紙だけデザイナーに作成してもらえるというサービスを提供している会社もあります。また編集上のアドバイスをしてくれるところなど、いろいろなオプションが会社ごとによって用意されているようです。
このオンデマンド出版は、自費出版だけでなく企画出版でも利用している形態です。
自費出版のメリットとデメリットは?
ここでは、自費出版にはどんなメリットとデメリットがあるのかを説明します。
メリット
まずメリットですが、著者の好きなように本づくりができることです。カスタム出版のように、出版社の担当編集者が関与して一緒に本をつくるような場合は、ある程度、編集者の意見も反映されますが、それはあくまでも著者の意向に沿ってよりよい本をつくるためのアドバイス。基本的には本づくりは著者の思う方向で行われます。ジャンルに束縛されることもページ数を気にすることもありません(本としての体裁を保つために最低限の文字数や原稿用紙の枚数が設定されているところもあります)。また、本の売り上げなどに頭を悩ます必要もありません。
もう1つ、印税のパーセンテージが企画出版よりも高いというメリットもあります。企画出版の場合は、通常、印税は売り上げの10パーセント(出版社や本の種類によってはそれ以下)ですが、自費出版の場合は、出版社によって異なるとはいえ、最低20パーセントから60パーセントという高い還元率です。
デメリット
次にデメリットですが、これは、製作費、つまり著者の負担する費用が決して安くないということです。装幀など魅力的な本にしようと思えば思うほど、製作費は増えていきます。
2つ目のデメリットは、自費出版の本は、なかなか書店に置いてもらえないということです。
3つ目のデメリットは、内容の一部に関して問題視されたり差別用語や差別的表現などを指摘されて回収などの依頼が入ってくる可能性があるということです。カスタム出版などのように編集者が介在している場合は、校正・校閲という作業が含まれているのでそういうケースはほとんど発生しませんが、完全な個人出版の場合はそういう恐れがあるということを認識しておく必要があります。
自費出版は著者が自由に原稿を書いて自由に本を作ることができる出版形態です。自由には責任が伴います。また何かを世に出すという行為自体、その世の中に対して責任を負うということです。そういった意味で、自費出版の全責任は著者にあるということを理解しておく必要があります。
自費出版のフロー
では次に、自費出版による本づくりの流れについて説明します。ここでは、カスタム出版の場合を取り上げて紹介します。ただし、この流れはどこも同じということはありません。出版社によって異なるので、1つの目安と考えてください。
1. まずは相談を
自分が書いた原稿や、原稿はなくてもこういった内容の本を出したいといった企画案を持って出版社に相談に行きます。通常、この相談は無料で行うことができます。
出版社の担当編集者は、クライアントの要望を聞きながら、ボリュームや仕様なども含めて、どのような本にしたらいいか提案し、その本が完成するまでの作業の流れや期間、そして大まかな費用についての説明を行います。
2. 原稿執筆
すでに原稿を書き上げている場合は、編集者からのフィードバックにもとづいて推敲作業を行い、より完成度の高い原稿に仕上げます。まだ原稿を書いていない場合は、編集者のアドバイスやライターの聞き書きやリライトなどによって、原稿を書き上げて、脱稿(執筆終了)します。
原稿を出版社に送る際に、本の中に挿入したいイラストや写真や図表などがあれば、それも一緒に送付します。
3. 本の仕様検討・提案
著者から送られてきた原稿を読んで、編集者は、その内容に応じた本の仕様を検討します。例えば、判型(本の大きさ)や造本(スタイル)、ページのデザイン、本文の構成について変更が必要かどうかなどを検討して著者に提案します。この段階で部数なども決まります。
なお部数については、最低部数が決められている出版社があるので、前もって確認することをお勧めします。
4. 見積もり・契約
原稿の整理が終わり、本の仕様、総ページ数、部数が決まった時点で、出版社は見積もりを出して著者へ送ります。著者がその数字で了解すれば、ここで契約を交わします。
この契約時には、見積額の全額を支払う場合や、手付金として半額または何割かを支払う場合など、出版社によって異なります。残額は本の完成時に支払うことになります。
5. 入稿・組版・ゲラづくり
入稿とは、原稿を印刷所へ渡すことを言います。印刷所では、入稿された原稿をベースに組版を行います。
組版によって、単なる文字データだった原稿が実際の本のページとなって印刷されます。組版とは、DTP(デスクトップパブリッシング)という、パーソナルコンピューターを使って文字の割り振りやレイアウトなどを行う作業のことです。
印刷所では、この組版によって、「ゲラ」というものが刷られます。「ゲラ」とは、一言で言うと試し刷りのことです。実際のレイアウトに合わせて原稿の文字を組んで印刷されたもの、いわばサンプル本のようなものです。
6. 校正・校閲
出版社では、次にこのゲラをもとに専門家による「校正・校閲」作業が行われます。校正は校正者によって、校閲は校閲者によって行われますが、出版社によっては、校正者が校閲を、また校閲者が校正を兼任しているところもあります。
ここで簡単に校正と校閲の違いについて説明します。「校正」は、文章の内容ではなく、もとになる原稿とゲラに印刷されている文字を1つずつ突き合わせて、誤字・脱字などの誤植を見つけていく作業です。「校閲」とは、原稿だけに対して行われる作業で、そこに書かれている文章を読みこんで、誤字・脱字などの誤植だけでなく、その内容の事実確認までも行うことです。例えば、人名や地名などの固有名詞、年代など歴史的な事実、数字の裏付けなどに関して徹底的に調べて間違いがないかどうかを確認します。また、差別用語が使われていないか、引用されている箇所はないか、などといったことも確認されます。
校正・校閲を経て赤の指摘が入ったゲラは、確認のために著者にも渡されます。その回数に関しては、出版社によって異なるようですが、大体「初校」(最初の校正用のゲラ)と「再校(二校)」(次のゲラ)で確認作業を終わらせることが多いようです。この2回の確認作業を終えると「校了」(校正完了)となります。
7. 校了・再入稿・印刷
校了となった原稿は、再び印刷所へ入稿されます。これを再入稿と言います。印刷所では、この原稿を元に製版を行い印刷機のセッティングを行って印刷作業を開始します。表紙やカバーや帯なども印刷されます。
8. 製本
印刷所で刷り上がった、「刷本(すりほん)」と呼ばれる用紙、表紙、カバー、帯などは、次に製本所へ回されます。製本所では、折り機や丁合機(ちょうあいき)、綴じ機、表紙付け機、裁断機などを使い、本の仕様に沿って製本作業を行います。
最後に、カバーや帯をかけ、売り上げカードなどを機械ではさんで、ようやく本が完成します。
9. 流通
この後、著者へ何冊か納品されてから、正規ルートで取次を経由してリアルな書店やネット書店に配本されることになります。この流通ですが、カスタム出版の場合は、1年とか2年などのように期間が限定されています。どのくらいの期間かは出版社によって異なります。期間を延長して流通させたい場合は、追加の費用が発生します。
自費出版に必要な費用はどのくらい?
自費出版にはどのくらいの費用がかかるものなのでしょう。実はこの費用に関しては、出版社によって大きく異なるために、平均いくらとは言えないというのが現状です。
そこでここでは、企画出版ではトップクラスのある大手出版社の自費出版を例に上げて、どのくらいの費用がかかるのかを見ていきたいと思います。書籍の大きさや仕様によっても値段は変わってきますが、ここでは四六版という一般的な書籍の大きさの本について説明します。
並製本の場合 | ||
---|---|---|
ページ数 | 部数 | 費用の目安(円) |
200ページ | 300 | 1,850,000 |
500 | 1,950,000 | |
1000 | 2,050,000 | |
300ページ | 300 | 2,300,000 |
500 | 2,400,000 | |
1,000 | 2,500,000 |
上製本の場合 | ||
---|---|---|
ページ数 | 部数 | 費用の目安(円) |
200ページ | 300 | 1,950,000 |
500 | 2,050,000 | |
1000 | 2,150,000 | |
300ページ | 300 | 2,400,000 |
500 | 2,500,000 | |
1,000 | 2,600,000 |
上記の価格は、本が出来上がるまでの価格で、流通させるとなると別途費用が発生するようです。このように、カスタム出版にはかなりの費用が発生します。
しかし一方で、オンデマンド出版という形態を採用して4,980円で1冊の本をつくることができるというサービスもあります。これはISBNコードも取得し、流通も行うというものです。ただし、編集やデザインワークなどはすべて著者が行わなければなりません。校正・校閲といった作業も著者が自分で行わなければなりません。ただ、表紙だけは、別途20,000円から60,000円でプロのデザイナーがカバーを作成するというオプションを選択することが可能のようです。
上記は、品質を第一に考えた出版社と価格を第一に考えたサービスの例ですが、このほかにももちろん、リーズナブルな価格でカスタム出版を提供しているところはあります。しかし、価格とサービスの内容は比例するものだと考えてよさそうです。
作家やライターでない素人は原稿を書くだけでも大変なのに、デザインワークや校正も自分でしなければならないとなるとハードルが高くなって、どうしても高額なカスタム出版に頼らざるを得なくなってしまいます。そういう場合には、素人には難しいデザインワークや校正までも引き受けて、出版社へ持ち込めるようなデータを作成してくれるサービスを利用することを検討してみてはいかがでしょう。
そのままスキャンの出版データサービス
そのままスキャンでは、紙ベースの出版と電子書籍の出版のどちらにも対応しています。
非破壊スキャナーとOCRソフトを使って書籍をデータ化するサービスのほか、OCRで読み取られた文字テキストデータを目視で校正するサービスも提供。更に、小ロット低コストでの出版が可能なオンデマンド出版用のデータ、電子書籍用のEPUBデータ制作も行っています。
費用はおさえたい、でも、良質なコンテンツの本を作りたい、というときは、原稿を持ってそのままスキャンまで相談されてみることをお勧めします。
まとめ
今や自費出版を利用すれば、だれもが自分の本を出すことが可能になりました。オンデマンド出版などの形態を利用すれば、ほとんど費用もかかりません。しかし書店に並んでいるような品質のよい書籍を作るには、やはり出版社というプロ集団のサポートが必要になり、当然、費用が発生します。
自分の本ができてそれが書店に並ぶ…、想像するだけでもワクワクしてしまいますが、そのために車1台買えるような多額の出費が伴う、という現実にはなかなか厳しいものがあります。
どこに価値観を置くかという問題もありますが、電子出版が普及してきた今、これからは、リアル書店に並べられる紙ベースの本は企画出版の本だけと割り切って、自費出版は電子出版に切り替えていく、というのもひとつの考え方かもしれませんね。