絶版本て何?どんな形で再出版されるの?

2019.04.17

絶版とは、既刊本の発行と販売を中止することです。つまり、絶版になってしまった本は二度と手に入らなくなることを意味します。これは学習や研究、そして仕事でその本を必要としていた人々にとっては、非常に困った問題です。

今回は、この絶版本とは何なのか、どうして絶版されることになったのかなど、絶版本に関する基本的な情報、絶版本をもう一度読む方法、その場合に生じる様々な課題とその解決法などについて説明します。

そもそも『絶版』とは?

疑問を持つ女性

ここではまず絶版の定義、絶版にする理由、絶版に伴って生じる状況について説明します。

絶版の定義

古い書籍

絶版本とは、出版社がこれ以上重ねて印刷をしない、つまり重版をしないと判断した本のことを指します。

通常、書店で取り寄せができないと言われるのは、「出版社品切れ」とか「重版未定」といった理由の場合がほとんどです。この場合は、将来的に世の中の流れが変わったり何かのきっかけで人気が出たりしたときのことを考えて、出版社はまだ重版の可能性を残していると言えます。が、「絶版」となると話は違ってきます。

「絶版」とは、今後一切重版されることはないという意味です。したがって、出版社は、絶版を表明すると同時に著者との出版契約を打ち切り、出版権を放棄して、抱えている在庫を裁断処分します。取り次ぎへも書店へも通知されます。出版社によっては、書店に残っている本の返品さえ受け付けないところもあるようです。

絶版が告知された場合、運よくどこかの書店に残っているものがあれば入手が可能ですが、それが売れてしまったら、もう誰もその本を手に入れることができなくなるということです。

では、出版社が絶版することを決める理由は何でしょうか

絶版にする理由とは

悩む女性

出版社が絶版を決める理由は、大きく分けて次の5つが挙げられます。

①売上が芳しくなく、今後も伸びる見込みがないと判断した
ほとんどの絶版の理由がこれに該当します。不良在庫(売れない本の在庫)を抱えることは出版社にとって大きなデメリットとなります。出版社は倉庫を借りて在庫を保管しているので、いつまでも不良在庫のために保管料を払いつづけることはできないということです。

②出版社が倒産してしまった
この場合は、その出版社から出された本はすべて絶版扱いになります。出版権などもすべて解除されるので、著者が別の出版社に新たに出版を依頼することは可能です。この際装丁やイラストなどは、倒産した出版社の許可がない限り同じものを使うことはできません。

③内容に問題があることが発覚した
盗作や無断引用が発覚した場合がこれに該当します。そのほかにも、差別的な表現や誤解を生むような内容を含んでいると、読者や有識者や団体などから絶版や回収の依頼が入ることがあります。これはとても難しい問題だと言えます。というのも、何が正しいのか、その基準が人それぞれの解釈により異なってくるからです。またその時々の時代背景も関係してきます。時代が流れるに伴って、科学が進歩したり人々の意識が向上したりすることで、後に内容の一部が問題視されるようになり、絶版に追いやられる本もあります。

④著者の意向
著者が既刊本をさらに別の形で育て上げて世に出したいと望んでいるような場合、著者自らが出版社に対して一旦絶版にしてほしいと依頼することがあります。また、著者と出版社の間にトラブルが生じたような場合、例えば、売り方や二次利用などに関して意見が合わなかったような場合も、著者は出版社に対して、出版権の返却を求めて絶版を要求することができます。

⑤その他、本に関係することで不祥事やトラブルが発生した
著者が事件を起こして逮捕されたり、ノンフィクションなどで紹介されていた事例や事象が偽りであったことが発覚した場合などは絶版扱いになります。

絶版に伴って起こる状況とは

疑問を持つ女性

絶版になった本は、ひと昔前まで図書館へ行って探すか、古本屋を一軒一軒訪ね歩いて見つけ出さなくてはなりませんでした。ところが今では、インターネットの普及により情報を収集することが容易になりました。それだけでなく、誰もがその本自体をネットオークションAmazonのマーケットプレイスへ簡単に出品することができるようになりました。

驚くべきはその価格です。当時人気があったのに出版社が倒産したり、著者と出版社との間にトラブルがあったりして絶版になった本は、どんなに年月が経とうとも高く売れる為、古本屋でも買取価格を高く設定する傾向があると言われています。例えば1,500円の絶版本が、Amazonのマーケットプレイスで9,000円という価格で出品されていたというケースもあり、更に高額な値段が付けられることもあります。

このように、絶版本を手に入れるにはかなりの大金を支払わなければならないケースも起こり得るのです。

絶版本を再販する方法

タブレット

出版社に絶版を通告されてしまった本は、倉庫に保管されていた在庫もすべて裁断されて跡形もなくなってしまいます。データベースからも削除されてしまうこともあり、そうなると該当書籍がこの世に存在していた形跡すら消えてしまいます。

ここでは、そういった絶版本をもう一度出版する方法について説明します。

もう一度紙ベースで復刊させる方法

復活する紙のイメージ

絶版になった本をもう一度読めるようにするための方法として、紙ベースで復刊させる手段が挙げられます。

活版印刷が主流だった昔は、底本(元になる絶版本)を入手したら、ページごとに活字を拾って行う組版という作業が必要でしたが、現在は底本のすべてのページを撮影して刷版を起こし、印刷機にかけて製本を行えば、装丁などは異なるとしても以前のような紙ベースの本が出来上がります。ただ、この紙ベースで復刊する方法には2つのデメリットがあります。

1つ目は、印刷部数が1部であろうと1000部であろうと、刷版の作成にかかる費用は同じであるために、ある程度の部数を販売するといった場合でなければ採算が取れずに赤字を生むことになるというものです。多くの出版社が復刊に慎重になるのはそのためで、かけた費用に対してどれだけの売上が見込めるか、その数を見極めるのはとても難しいようです。復刊したものの、また不良在庫となって倉庫に山積みになると本末転倒です。

このように多数の部数を販売することができるという前提がなければ、紙ベースでの再版はあまりお勧めできる手段だとは言えません。

費用など度外視して、どうしても愛蔵書のうちの1冊として手元に置いておきたい、といった方もおられるかもしれません。2つ目のデメリットはこれに関係するもので、紙ベースの本だといずれ経年による劣化が生じるということ。

では、どうすれば絶版本をもう一度読むことができるのでしょうか。ここで紹介したいのが、次に述べる「電子書籍」と「オンデマンド出版」です。

電子書籍にして販売する

電子書籍を読む媒体

AmazonのKindleやBCCKSといった電子書籍サービスを目にしたことはあると思いますが、これこそ、今絶版本をもう一度読むために主流になりつつある方法なのです。

紙ベースで復刊すると上述のように多大なコストがかかりますが、電子書籍はそのノウハウを知ってさえいれば1人ですべて書籍化から販売まで行うことができるので、ほとんどコストがかかりません

個人が電子書籍を作成する場合の工程は以下の通り。

  1. コンテンツ(文章)をテキストファイルなどで作成
  2. 見出し・段落・字下げ・リンクの指定
  3. EPUB形式に変換(「でんでん」や「BCCKS」などのフリーソフト利用)
  4. 表紙を作成
  5. KindleやBCCKSに公開申請
  6. KindleやBCCKSにてオンライン販売開始

これだけで書籍はネット上で流通し、既定の印税も入るようになります。テキストファイルが既にに完成している場合は、流通に乗るまで半日もかかりません。

しかし、これは文章をこれから書こうとしている場合や書いた文章がファイルとして保管されている場合です。絶版本の場合は、このように簡単にはいきません。まず何十ページ、または何百ページもある紙ベースの本の内容をデータ化する必要があるためです。絶版本の場合はどうすれば良いのでしょうか。

通常はスキャナーにかけて文書を読み取り、それを今度はOCRソフトを使ってテキスト化します。数枚のレポート程度であればそれほど難しくありませんが、これが1冊の本となると大変な作業になります。また、企業や組織や団体の名の元に販売される電子書籍となると、そのデザインなど装幀にもある水準以上のレベルが求められます。

そこで今、多く利用されているのが電子化代行です。リーズナブルな価格で依頼できるということで、個人ベースでも利用している人は多いようです。法人で言えば、例えば講談社では以下の6つの作品を電子書籍で復刊しています。

    ・『《魔法使い》にお願い? 運命のタロット(1)』(皆川ゆか 著)
    ・『《教皇》がiを説く真・運命のタロット(1)』(皆川ゆか 著)
    ・『ぱらどっくすティ-・パ-ティー』(皆川ゆか 著)
    ・『ドラゴンフライの空ギニョールアイの城』(上遠野浩平 著)
    ・『SF西遊記』(石川英輔 著)
    ・『増殖商店街』(笙野頼子 著)

オンデマンド出版で再販する方法

タブレットと本を持つ人

電子書籍と並行して、最近Amazonなどでも取り組みをはじめて話題を呼んでいるのがプリントオンデマンド(Print On Demand/POD)、つまりオンデマンド出版です。

このオンデマンド出版のメリットは、1冊からでも必要な部数だけ印刷して製本し、紙ベースの書籍を販売することができるという点にあります。ことにAmazonはこのPODサービスによって、読みたい書籍をサイトから選ぶと、それを必要な数だけ印刷・製本してくれるというサービスを展開しています。これによって、絶版本や希少本なども必要な部数だけ入手することが可能になるということです。

このPODに取り組んでいるのは、Amazonだけではありません。三省堂書店なども印刷機を所有しているために早くから取り組んでいました。

絶版本を再販する上で課題となるもの

本とPC

デジタルアーカイブの視点から考えると、絶版本もいきなり紙ベースの本で再販するのではなく、まず電子書籍というデータ化を行うことをお勧めします。データ化しておくことで、劣化や損傷なくその本を次世代の人々へ引き継いでいくことができるからです。そして先述したように、必要であればPODによってそのデータから紙ベースの本を製本して販売することもできます。

しかしこのデータ化による再販にも、取り組まなければならない課題が生じる場合があります。

絶版本はデータ化する必要がある

ひらめく女性

電子書籍化する際に納品されるデータが完全な形で残っている場合は問題ありませんが、一部破損したり欠落していたりすると、データによっては再度底本を一からデータ化しなければなりません。場合によっては底本のデータ化がされておらず、紙ベースの底本をそのまま納品されることもあります。この場合も、底本をデータ化する作業からはじめなければなりません。

つまり絶版本を再販する際に生じる課題は、底本をデータ化しなければならないということです。

そしてそれに伴って、別の課題が生じます。底本をデータ化する際に、その本を裁断しなければならないということです。また絶版本の場合、経年による黄ばみや汚れなどが見られることが多いために、それをどう処理するか、といった課題も生じます。更に言えば、底本をデータ化された画像で渡された場合に、そこからテキスト化をしなければならないといった課題もあります。

データ化の流れ(解決方法)

解決方法を探す女性

まず、紙ベースの底本をデータ化しなければならないという課題ですが、これは各ページをスキャナーでスキャンしてから、OCR(Optical Character Recognition)ソフトを使い、そこに書かれている文字をデータとして取り込むことで解決します。最近のOCRはどんどん性能がよくなっているので、識字率もかなり高くなっています。が、100パーセントではありません。したがって、より完璧を期するには、最後にマニュアルによる目視チェックと校正作業を行う必要があります。

次に経年による黄ばみや汚れに関する課題ですが、これはPhotoshopをはじめとした画像編集ソフトの画像修正機能を使えば取り除くことができます

最後に『本を裁断しなければならない』という課題ですが、これは非破壊スキャナーを使用することで解決します。

なお、そのままスキャンでは以上に挙げた『本を非破壊でデータ化』『OCR処理と文字校正』そして『オンデマンド出版および電子書籍用のデータ作成』の全てを承っております。詳しくはリンク先よりご覧ください。

まとめ

笑顔の女性

絶版本に限らず、希少本や貴重な書籍や文書は、まずデータ化して電子書籍として残すことにこそ、デジタルアーカイブの大きな意義があると言えます。貴重な文化遺産をそのままの形で後世へ引き継ぐというのは、現代に生きる人間の義務でもありますよね。

また、データ化すると加工も可能になるので、オリジナルはそのまま残しつつ、作成した電子書籍はいろいろなバリエーションで楽しむこともできます。しかも、個人ベースや自炊代行では実現できない非破壊スキャンを使えば、底本を無傷で手元に残すことができるのです。同時に、紙ベースの本に負けじと劣らずの良質な電子書籍を作り、それをまた紙ベースの本として再販することも可能なのです。この画期的なシステムは、これからも時代の要請に応じてまだまだ進化しいくと予想されます。