EPUBのリフロー型とFIX型の違いって?

2019.04.05

電子書籍のフォーマットとして広く普及しているEPUB(イーパブ)。かつては電子書籍を読み取るハードウェアに依存していた電子書籍フォーマットですが、EPUBの登場でハードウェアに縛られることなく読み取れるようになりました。

EPUBのデータはWebの構成と非常に似ているため、今後使えなくなる可能性が少なく、書籍を電子書籍化するにあたって安心できるフォーマット。

EPUBで電子書籍化すれば、AmazonのKindleストアにも簡単に個人出版できるため、本を執筆している方にもオススメできます。

本記事では、便利で安心感のあるEPUBを語る際には外すことができない特徴であるリフロー型」と「FIX型」のレイアウトついて説明します。

リフロー型

文字中心のページ

リフロー型はEPUBリーダーを搭載したハードウェアの解像度や文字サイズによってテキスト及びレイアウトが自動で変わる方式。そのため、本の基本的な概念でもある固定された「ページ」を持ちません。設定できる文字サイズや行間によって1画面に対して何文字表示できるか変動します。そういった点から、リフロー(再流動)という名前がつけられています。

この章では、リフロー型の制作方法や用途、メリットデメリットについて説明します。

制作方法

リフロー型のEPUBは、電子書籍化したい文章が記載されているPDFやテキスト形式ファイルから、専用ソフトでEPUBファイルに変換します。

EPUBに変換するソフトは多数リリースされています。以下はその一例です。

【EPUB制作ソフト】

  • でんでんコンバーター(クラウドベース)
  • BCCKS(クラウドベース)

【DTPソフト】

  • adobe InDesign(Windows/Mac、有料)

【電子書籍管理ソフト】

  • Calibre(Windows/Mac/Linux、無料)

EPUBへの変換機能を持つソフトは、有料から無料、クラウドで使用するものまで、様々なソフトが存在。企業ならば有料ソフトの利用がベターと考えられます。特殊な例として、EPUB変換ソフトの中でもでんでんコンバーターは、電子書籍業界に関わっていない個人出版者のファンが多数ついているソフトです。

実績はしっかりあるため、これからEPUB制作に取り掛かろうとしている方は、一度使用してEPUBを作る感触をつかむと良いかもしれませんね。

用途

リフロー型の主な用途はテキスト主体の電子書籍作成書類や学術書などを電子書籍化する際に利用されます。テキスト主体といっても簡単な図や画像を入れることは可能です。

リフロー型はEPUB用リーダーで読み込めば、特定の文字を指定して検索をかけることができます。紙の本では検索をかけて調べることができないため、効率性のアップが可能。特定のワードが入っている場所へすぐに飛ぶことができる点はリフロー型を採用した電子書籍の特権であり、強みです。

メリット

リフロー型では、文字の拡大縮小や行間を自由に変更することが可能。そのため、読者自身が一番読みやすい状態にカスタマイズすることができます。

例えば、近眼で紙の本の文字サイズだと見づらい人でも文字サイズを大きくすることができるため、本を読む負担を少なくすることが可能。同様に老眼が入っている人にも有効です。リフロー型は本を読むすべての人に優しいレイアウトといえるでしょう。

また、文章の一部にマーカーを引くこともできるため、電子書籍化された教本などを読みながら勉強するときに便利。内容を頭に定着させるためにもリフロー型の特徴は役に立ちます。

上で説明したように、リフロー型には電子書籍だからこそできる機能がたくさん含まれています。素晴らしいレイアウトですね。

デメリット

リフロー型の特徴でもある文字サイズ変更は、デメリットでもあります。文字サイズを変更することによってレイアウトやページ数が変わってしまうからです。そのため、画像が多く使われている書籍には不向き。画像やレイアウトを重視されている本は後述するFIX型を使用したほうが無難です。

FIX型

イラストや写真の多いページ

リフロー型と肩を並べるレイアウトがFIX型。デザイン関連の教本や技術書など絵や図がメインになる書籍やレイアウトが重要となる書籍にFIX型は採用されます。

この章では、FIX型の制作方法や用途、メリットデメリットについて説明します。

制作方法

FIX型のEPUBは書籍をPDFやJPG、PNG化したデータから制作します。制作方法は多数ありますが、安心してFIX型のEPUBファイルを作りたいのならば有料ソフトであるInDesignを使用すると便利。

InDesignでFIX型にしたいファイルを選択してからメニュー項目「書き出し」→「EPUB(固定レイアウト)」を選ぶだけでFIX型のEPUBファイルを作ることができます。

他に有名な方法だとクラウドベースである「ロマンサー」、Windows用のフリーソフトである「node epub maker」を使う方法などがあります。企業であれば有料ソフトを使用するほうがベターと思われますが、FIX型EPUB作成の感覚をつかむために最初は勉強として自分が使いやすいソフトを利用すると良いでしょう。

用途

FIX型はリフロー型と異なり、EPUBリーダーを搭載したハードウェアの解像度でレイアウトが変わることがありません。紙媒体の本と同様に文字サイズやデザイン、レイアウトが固定されているのです。そのため、FIX型(固定)と呼ばれています。

FIX型の電子書籍を読むときには高解像度のディスプレイを搭載しているハードウェアが推奨されます。具体的には1920×1200pxの解像度があれば、快適に読むことができるでしょう。

また、ハードウェアのアスペクト比も重要。16:9だと上下に空白ができてしまいますが、4:3だと空白はできません。具体例を出すと多くのAndroid端末では16:9を採用しているのに対し、AppleのiPadでは4:3を採用しています。もし、タブレットでFIX型の電子書籍を読むのであれば、iPadのほうが解像度やアスペクト比から適しているといえます。

メリット

FIX型の最大のメリットは、原本となる書籍の見た目をそのままに電子書籍化できること。リフロー型が読者に様々な読書スタイルを与えるレイアウトだとすれば、FIX型は著作者の想定したとおりに電子書籍化するレイアウトであるといえます。また、書籍と同じレイアウトの電子書籍を求めている方にも向いています。

FIX型のメリットとして、リフロー型にはない画面全体を拡大する機能があります。タッチ対応のハードウェアであれば、2本指でピンチインすれば可能。イメージとしては、スマホで閲覧しているWebページを拡大して見るときと一緒です。

他にも使用しているハードウェアの解像度によりますが、見開きで表示することが可能。書籍によっては見開き表示で左右一対になっていることがデザインの関係で重要な場合がありますから、これは非常に大事なメリットといえるでしょう。

デメリット

FIX型はリフロー型では可能な文字の拡大縮小や行間、フォントの変更は不可能。文字が読みづらいと感じた場合は、画面全体を拡大して対処することになります。

また、EPUBリーダーを搭載しているハードウェアの解像度が低いと画面全体に電子書籍を表示できないケースがあります。その場合、画面をスクロールして隠れている部分を閲覧することになるため、少々手間になります。

FIX型はページごと画像で取り扱うため、リフロー型と比べてファイル容量が大きくなるという点も。ページが増えるとリフロー型でもFIX型でも容量は増えますが、FIX型の場合は「ページが増える=扱う画像が増える」ことからFIX型は容量が増える倍率が大きくなります。

とはいえ、約200ページの本を一つのページあたり1920×1200pxの解像度で制作しても約50MBほどにしかなりません。HDDやSSDといった記憶媒体の大容量化や光回線、4Gといった回線の高速化などでデータ容量が気にならない昨今では、データサイズはそれほど大きな問題ではありません。仮に4Gでダウンロードしたとしても一瞬で完了してしまうため、困りませんね。

FIX型は更に2つのカテゴリーが

FIX型はリフロー型と異なり、更にインタラクティブ型イメージ型の2つに分けられます。インタラクティブ型はリフロー型と同じく文字データを持っており、検索やリンク、動画及び音声を入れることが可能です。教科書やカタログなどレイアウトと文字が重要視される書籍はインタラクティブ型で電子書籍化すると便利でしょう。

もう一つはイメージ型。イメージ型は画像のみで成り立っているものを指します。FIX型といえば、真っ先にイメージ型を想像する方が多いでしょう。文字データを持っていないため、検索やリンクを埋め込むことはできません。図集や写真集など絵が主体となる書籍は文字情報を含む必要がほぼないため、イメージ型で電子書籍化すると良いでしょう。

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豆知識:リフロー型とFIX型の特徴を併せ持つレイアウト

タブレットを持つ社会人

EPUBのレイアウトはリフロー型とFIX型の2つが主流ですが、実はそれ以外にも存在します。それがリフロー型とFIX型の特徴を兼ね備えるAdvanced-Hybrid Layout(アドバンスド・ハイブリッド・レイアウト)

表示はFIX型を採用しているため、レイアウトやデザインの崩れは発生しません。さらに一部の文章にかかっているデザインを除外してリフロー型のような見た目にすることが可能。

リフロー型に似た形式で表示しているときには文字サイズの変更や読み上げ機能を使用できるという汎用性を持ちます。

そのような素晴らしいレイアウトがなぜ普及していないかというと、アドバンスド・ハイブリッド・レイアウトに対応しているEPUBリーダーが限られているという点と多くの電子書籍販売サービスがサポートしていないから。そのため、実際に利用されているケースは非常に少ないというわけです。

しかし、大きな可能性を秘めているレイアウトであると感じます。普及したらリフロー型とFIX型に肩を並べる存在になるかもしれません。今後の動向が楽しみなレイアウトですね。

絶版本のEPUBを作る場合は?

古書・貴重書

書籍において、絶版本はとても貴重な存在。プレミアがついている本も珍しくはありません。では、そんな貴重な絶版本からEPUBを作る場合はどうすれば良いのでしょうか?ここでは絶版本からEPUBの作り方を紹介します。

書籍からスキャン

データが残っていることが少ない絶版本を電子化するにあたって、最初に必要となる工程が絶版本のスキャン。書籍をスキャニングしてPDF化します。スキャンするときにはスキャナーによって書籍の裁断が必要となる破壊型と書籍の裁断が必要ない非破壊型がありますが、原本を保存しておきたいというニーズがある場合は非破壊型がベストです。

絶版本はおおよそ年数が経っているものが多いため、日焼けや経年劣化による黄ばみが発生している場合も。黄ばんでいるまま電子書籍化しても満足しないお客様がいるため、画像を修正して黄ばみを取り除きましょう。画像編集ソフトの用途の一つである画像修正機能を使えば黄ばみを取り除くことができます。また、スキャナーによっては付属しているソフトで黄ばみを消すことも可能です。

OCR処理を実施

絶版本が文字情報中心の書籍だった場合、電子書籍化する際に必要になるのが、紙媒体の本からスキャニングする際にソフトを使ってOCR処理を施すこと。OCRとはOptical Character Recognition(光学文字認識)の略で、スキャンして取り込まれたデータから文字情報を認識する処理のことを指します。認識した文字情報は電子書籍に埋め込み、検索など電子書籍ならではの機能が使えるようにします。

2019年4月現在、OCRの識字率は高い精度を誇っていますが、100%ではありません。スキャン時の解像度やカラー、書籍の状態によってOCR処理を施してもいくつかは誤認識が発生します。電子書籍化において、誤認識はどこまで許せるかは重要な要素の一つ。これによって、電子書籍に文字情報を埋め込む作業にかける労力が変わってきます。

誤認識を許容できるのならばOCR処理を行うソフトでの作業のみで終わりますし、誤認識を可能な限り排除したい場合は、ソフトで文字情報を認識した後、人による目視チェック・校正作業を行います(そのままスキャンでは最大99.99%を実現しています)。が、それでもミスが0%になるということは難しいため、誤認識に対してはある程度の割り切りが必要になります。

ファイルをEPUBに変換する

スキャニングして作成したPDFを今度はEPUBに変換。リフロー型とFIX型を説明した章で紹介したように、EPUBに変換するための専用ソフトを利用します。EPUBへの変換が終了したら、絶版本をEPUB形式の電子書籍にする一連の工程は完了です。

補足:OCR技術は確実に進化している

OCR技術は特別な機能のように聞こえますが、着々と進化しているため、電子書籍業界以外でも使用することができます

2019年4月現在では、GoogleのアプリであるGoogleドライブやLINEの文字起こし用アカウントである「文字起こし君」など誰でも簡単にOCRを利用できるサービスが多々用意されています。触ってみるとOCR技術の普及を体感できますよ。

また、昨今のAIブームでOCRにもAIを使用するケースが出てきています。なかには識字率が99.91%と驚異的な値を記録しているソフトも。今はまだ金融法人など重要文書を扱う企業でしか運用されていないようですが、AIを使用したOCRが電子書籍業界にやってくるのも時間の問題でしょう

出典:techcrunch 手書き文字認識率99.91%のAI-OCRで紙業務を効率化するAI insideが5.3億円を調達
[blogcard url=”https://jp.techcrunch.com/2018/08/06/ai-inside-fundraising/”]

まとめ

タブレットを持った女性

EPUBは今後廃れる心配が少なく、使いやすい電子書籍のフォーマット。レイアウトは大きく分けてリフロー型とFIX型の2つがあります。リフロー型は文字サイズや行間、フォントを読者が自由に変更できるため、非常にカスタマイズ性が高く、テキストメインの書籍を電子書籍化するときに最適です。

もう一つのレイアウトであるFIX型は、書籍をそのままのレイアウトで電子書籍化することができるため、教本や写真集など絵や図を多く使っている書籍や、デザインが重要な書籍に最適。また、FIX型は文字データを持っているインタラクティブ型と純粋に画像データだけを持つイメージ型の2つに細分化されます。

リフロー型とFIX型の特徴をおさらいすると下記のようになります

リフロー型 FIX型
レイアウト 流動式 固定式
用途 テキスト中心の書籍 デザインやレイアウトが大事な書籍
文字や行間の拡大縮小 ×
フォントの変更 ×
文字の検索 インタラクティブ型なら〇
イメージ型なら×
画像の拡大 ×

絶版本はデータとして残っていない場合、書籍からスキャニングしてEPUBに変換する必要があります。その過程で、文字データを埋め込むためにOCR処理が必要。

OCR処理はシステム上で文字を自動認識してくれますが、完璧ではなく、多少の誤認識が発生してしまいます。誤認識をできるだけ取り除きたい場合は、データを目視でチェックしていく人力での作業が必要。それでも100%誤認識を無くせるわけではないため、書籍を電子書籍化する場合は、ある程度誤認識を許容する必要があります

OCR処理は電子書籍を制作するにあたって絶対に必要な要素。そんなOCR処理ですが、技術の発展に伴い、アプリやクラウドサービスにもなっています。電子書籍業界以外にも普及しているため、個人で使用することも可能。

識字率も技術の進歩により向上しています。いずれ誤認識がなくなる時代がくるかもしれません。OCRは今後が非常に楽しみな分野ですね。