漫画のネタバレサイトに電子化代行が思うこと
私たちそのままスキャンは書籍の電子化/デジタルアーカイブのプロです。一般の方が貴重書やA0サイズ等の大型資料を電子化するのは非常に困難なので、大変有難いことに毎日多くのお客様にご依頼いただいております。
一方でこれまでは私たちのような専門業者だけが担ってきたスキャニングは、その技術が飛躍的に進歩することで、ある程度の大きさや種類までなら一般の方でも気軽に電子化出来るようになりました。いわゆる自炊と呼ばれるものです。
『普通の人にも出来るようになっちゃったら商売上がったりなんじゃないの?』と思われる方がいらっしゃるかも知れませんが、今までデジタルアーカイブや書籍電子化という言葉がピンと来て貰えなかった中(笑)、それら用語の知名度が上がるため、この流れは実は歓迎すべきところです。
また、そのままスキャンは一般層に流通しているスキャナーやスキャニング技術以上のものを持っている自信がありますし、低品質な自炊代行を提供する業者は次第に淘汰されることになると思います。ですからより多くの方にスキャニング機器や概念が広まってくれることは、弊社にとっても嬉しいことなのです。
そんな中で残念なのが、いわゆるネタバレサイトの存在ですね。
[blogcard url=”http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1709/07/news050.html”]
非公式に電子化した違法サイト
よく知らないという方にご説明すると、ネタバレサイトとは漫画の誌面をそのまま画像として掲載しているウェブサイト、ブログのことを指します。
逮捕者が続出している通り出版社とは無関係の人物が運営しており、当然違法な行為です。管理人は運営サイトに広告を掲載することで毎月途方もない金額を得ており、その一方で出版社、ひいては作者に大きな損失をもたらしています。
関連記事: 電子化の前に!書籍の著作権ってどうなってるの?
立ち読み出来ないよう雑誌に封をしている書店も多い中、スマホやPCさえあれば無料で人気作が読める(しかも閲覧者には罰則がありません)なら…と毎月何億というアクセスを集めているサイトさえあります。これは海外でも同じようです。
漫画によっては作品名で検索すると公式サイトよりもこちらの方が上位に表示されるなど、もはや運営者にとってやりたい放題の状況が続いています。
このネタバレサイトで掲載される誌面の画像は、恐らく市販のスキャナーを使って電子化していると思われます。詳しくは別の機会に譲りますが、市販のスキャナーはコンビニ等に置かれている複合機より遥かに効率的に電子化することが可能です。ネタバレサイト運営者はこのスキャナーを所有し、毎週雑誌を購入後スキャニングして画像を公開しているのでしょう。
無断公開はダメ、ゼッタイ
当ブログでもご紹介している通り、著作権者に無断で書籍のデータを公開したり、 電子化を依頼することは違法です。意外と知られていないのですが、これは公開しなくても同様)。
そのままスキャンでは、お問合せいただいてもお持ちの書籍の著作権について確認が出来ていなければ(=権利者に電子化の許可を得ていなければ)、どんなに貴重でも、どんなに量が多くても全てお断りしています。実はこうした依頼は少なくないのですが、私たちは法律を犯してまで電子化を浸透させたくはありません。一方で違反であることを承知の上で電子化を引き受ける自炊代行業者も多く、そうしたサービスを利用された方弊社へお電話されると驚かれることも。
私たちは書籍の電子化を承る際、当然原本の情報についてお客様よりお話を伺います。これは何も状態や量のお話だけではなく『どのような経緯で作られた本なのか』『電子化後、どう活用したいのか』など書籍にまつわるビジョンやストーリーまで聞かせていただきます。今では知らない方がいない有名企業や作品も、立ち上げた当初から大変な苦労や努力をされているという事実があります。ネタバレサイトは、こうした方々の苦労や努力を踏み躙るものです。
サイト運営者はもちろん閲覧者の方々も、漫画のストーリーに熱中するならば、その作品の裏で頑張っている方々のストーリーにまで思いを巡らせて欲しいものですね。
追記:合法の電子コミックサイトはどう思っているのか
実はそのままスキャンでは、約2年間にわたって『絶版マンガ図書館Z』の運営を電子化の面でお手伝いしています。『絶版マンガ図書館Z』は、『魔法先生ネギま!』などの大ヒット作で知られる漫画家の赤松健先生が立ち上げた電子コミックのサイト。絶版になってしまった漫画を電子化して無料公開するという斬新なコンセプトで始まり、現在では掲載作品のジャンルを広げ月間100万人が利用する有数の電子書籍サービスにまでなっています。
先日同サイトを運営する株式会社Jコミックテラス様にインタビューさせていただいたのですが、その際に海賊版に関する赤松先生のコメントも聞くことが出来ました。
ある海外の方から『作品が面白かった』というコメントをいただいたことがあったんですが、それが実は海賊版でした。読んでくれるのは嬉しいけど海賊版で…(先生の気持ちとしては)非常に複雑だったようです。
こんな経験も相まり、漫画家を救うため立ち上げたのが同サイトなんですね。やはり作品を多くの人に読んでもらい、ファンになってもらうことはクリエイターとして嬉しい一方、当然ながらそれが適切な形での鑑賞ではないことについては素直に喜べないようです。