なぜサービス業界の現場では電子化が進まないのか?
先月末の話になりますが、埼玉県の小学校教諭が『時間外勤務の手当支払い』を求めて県を訴えたことがニュースになりましたね。学校の先生と言えば昨今業務の過酷さで何度も話題になっています。
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一方同じく『激務』の介護業界では、電子化を進めたことで業務改善に成功した例も。長年長時間労働が問題になっていたサービス業界にも、少しずつ動きが出てきているようです。
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一般的にこうしたサービス業界は、業務の効率化を図るテクノロジーの導入や電子化の実施が遅れがちだと言われています。これらのニュースを見ると以前在籍していたサービス業の会社を思い出します。
本稿では、かつてサービス業界に在籍し、現在は電子化の業界でお客様と直にお話させていただく私から、サービス業を始めとした一部の業界で『電子化や業務効率化が進まない理由』について簡単に考察してみます。始めに言っておくと、私はこの業界で無理にペーパーレスを進めていくべきではないと考えていますし、現場の方々が電子化に対して無理解だとも全く思っていません。ただ様々な事情から抜本的な電子化に踏み切るのが難しいのではないか、と考えています。
なおごく一部の職場を経験した者の意見であることを予めご承知おきください。
目次
サービス業出身者が考える電子化の“壁”
電子化が進まない理由① ITの導入障壁
私が在籍していた会社はイベント関連の企業でした。東京本社ではおよそ100人の社員が働いており、それぞれにデスクとPCが与えられていたのですが…ほとんどのOSがWindows XPでした。ちなみに当時2015年なので、ちょうどその1年前にサポートが終了しています。当然社の上層部も関知していたものの『現状トラブルが無いからしばらくは』とのことで、少なくとも私が勤務していた1年程度の間はXPが使用されていました。当時既に8とか出ていましたから、処理速度の遅さによる業務スピードとかトラブル発生時のリスクを考えるとちょっと怖いですね。
また、イベントは数年スパンで準備が進められる大規模なものが多かったので、当然スケジュールも綿密に計画されます。が、使用しているツールはExcelとメールのみ。何百人といる関係者が日夜様々な動き・進捗を見せる一方、そうした情報はスタッフが手打ちで毎日更新していました。そういえば日報もありましたけど、こちらもExcelへの手打ち入力でしたね。しかも日報を入力できるPCは何故か一台のみ、その間仕事が終わっていても順番待ちです。
更に言えば、当日一緒にイベントを進めるアルバイトスタッフには一日の最後に『勤務報告書』のようなものを書いていただくのですが、これも手書きが原則。後日私たちの会社の者が1枚ずつ手入力してデータ化するのが日課となっていました。
2015年と言えば既に数々のプロジェクト管理ツールやイントラ系の管理ソフトがリリースされていましたから、徐々に徐々に導入していくことも出来た筈です。
しかし業界全体として常に人手不足な上、イベント直前は徹夜も辞さないなど常に業務の『量』を意識せざるを得ない空気が流れています。そこに新しいツールを導入する費用、現場が使いこなせるようになるまでの時間、そして後述する『紙』や『マンパワー』への信頼といった理由から、そもそもソフトウェアの導入や電子化を始めとしたデジタライズには中々踏み切れない状況があったのではないかと考えています。端的に言えば『量』が凄すぎて、効率化とか電子化で何とかなるレベルでは無いという認識が強い、というのが個人的な感覚ですね。
電子化が進まない理由② 紙とマンパワーへの信頼
全員とは言いませんが、人を対象とする業務についてITやデジタルで“済ます”ことを『冷たい』と感じる方が一定数おり、実際私の会社にも多くおりました。
例えば、先述したアルバイトスタッフには1人ずつマニュアルが手渡されます(当日、紙で渡されます)。このマニュアルも実は社内で1部ずつコピー機で出力し、その後長机に並べて社内の人員を動員しマンパワーで作っていくのが日常的でした。普段滅多に喋らない部署の方と共同作業出来るのはいい思い出ですが…
またこれはやむを得ないところですが、イベントで登壇される方々や所謂“スペシャルゲスト”の方には1部ずつ招待状が送られます。これらは当然紙で、1部ずつ手で丁寧に封入する作業が発生するんですね。不器用な私…毎回非常に時間をかけていたのを覚えています(泣)。
そもそも人が好きで働いている方々。人が作業すること自体への信頼度が他の業界に比べ非常に高いのかも知れません。
電子化が進まない理由③ “業務効率化”への認識の違い
一般的に業務効率化=IT、そのままスキャンで言えば電子化やデジタライズですが、サービス業界だと少し意味合いが違います。
例えば、手書きの名簿をExcelに反映しなければならないとしましょう。弊社に頼めば電子化やテキスト化を担う企業なので、ここでは手書きの紙をスキャニング→OCR処理→テキスト化→Excelにコンバートするのが最も楽で確実な方法です。もちろん費用が掛かるので(笑)、そうでなければアルバイトスタッフに入力をやってもらうか、クラウドソーシングを使うか、少々手間ですがフリーのOCR処理ソフトに掛けて後日校正するか等他にも方法はあります。
一方私のいた会社では、そもそも外部へ委託する、電子化などのテクノロジーを使うという考えではなく、どちらかというと『いかにミス無く手入力するか』という、極端に言えば職人のような方法論を習得することが重要でした。例えばWチェックの際どのように紙を並べると一番見やすいかとか、入力する項目の順番を工夫するといったテクニック面ですね。これらをアルバイトではなく事務局の中枢である正社員がやる訳ですから、今考えると非常に勿体なかったような気がします。そもそも手書きの名簿を作らなければ良い話ですが…
このように、業務効率化のために新しいツールを導入するのではなく、今あるソフトと人員で最大限効率化することが他の業界よりも推奨されていました。その効率化が限界まで達しても『まだ大丈夫…!』となり、実際のところ毎回何とかなってしまうんですよね。
ただし、電子化=善ではない
かれこれ3年前のお話ですので、今は大きく変わっているかも知れません(実際、2018年現在OSはWindows10が使用されているようです)。私はその後紆余曲折を経て誠勝に入り、お客様にインタビューさせていただいておりますが、実際に電子化することの効果は非常に大きいとのご意見を直接伺うことが出来、改めて当時は大変だったなぁと…
もっとも、業務を可能な限り電子化、アウトソーシング化、効率化すれば良いという程単純な話ではありません。恐らく現場の方々も、電子化の業者は知っているが導入する程のメリットを感じられないというのが本音ではないでしょうか(この辺りは我々の努力不足ですね…)。
例えばイベントに使用される資料には個人情報がふんだんに含まれているものもあり、超有名人の口座番号や住所、電話番号等を扱うことも少なくありません。この場合当然アウトソーシングは出来ず、どれだけ時間が掛かろうとも事務局の人間が遂行する必要があります。実はこの種の資料は非常に多いのです。
またマンパワーへの信頼について言えば、この点は中々分かりづらいかも知れませんが、あえてITでやれば良い所を『手間をかけてでも人の手でやる』ことに『おもてなし』『心』を感じることが出来るという側面もあります。人によって違いはありますが、『結果は違っても丁寧にやる』ことが良しとされているのは周知の通りではないでしょうか。
因みに私はこの会社を1年で辞めてしまったんですが、今でも社員の方々のことは尊敬しています。サービス業界はどういう訳か下に見られがちですが、実際には細かい仕事が要求されミスも許されません。そうした丁寧な業務を淡々とこなすプロフェッショナル達と一緒に働けたことは大きな財産だと考えています。
一方で教育や介護がそうであるように、業務効率化と言っても人の作業に委ねてしまうところ、『本当に人間がやらなければならないことは何か?』がやや曖昧になっているところは、この業界が抱える課題だと思います。
実は、そのままスキャンへ『業務効率化』をメインにお問合せされるお客様は決して多くありません。しかし実際に電子化された資料を使ってみると、特に現場の方々が業務効率に関するメリットを異口同音に述べられるのですよね。業務効率化とは売り上げを改善する為だけでなく、同時に“仕事をより楽にするもの”でもありますから、是非人間と電子化の程よい着地点を見つけていただき、世界に誇る日本のサービス業を未来に繋いでいただければ良いですね。そこへ書籍電子化が寄与できるとならば幾らでも協力したいところです。