書籍電子化現場のトリセツ。
デジタルアーカイブや書籍の電子化って非常にニッチな業界で、ありがたいことにお声がけは沢山いただくものの存在感の薄さが悩みの種であります。これはお客様の方でも同じだそうで、自分の大事な書籍をどんな人が取り扱うのか気になるというお話を聞きます。業界全体を見ても、なかなかスタッフの顔や作業風景などアップしていませんからね。
そのため当ブログでは、書籍の電子化に携わる者たちの姿を少しずつ紹介することでこの業界の透明化や理解の促進を図っていこうと考えています。
まず今回お話するのはスキャニング担当者の制約についてです。
大前提として、そのままスキャンでお預かりする資料は細心の注意を伴って扱う必要があります。勿論お客様の書籍ですから丁寧に対応するのは当たり前なのですが、時には世界に2つとない超絶貴重な書籍を電子化することもあり、作業者は僅かでも傷が付かないよう張り詰めながらスキャニングに取り組んでいます(一番古い例では1600年代に作成された書籍をスキャンしたこともありました)。
この作業者、そして作業するスペースには厳密なルールが課されているので、いくつかご紹介しようと思います。
目次
スキャニング担当に課される6つのルール
① 土足厳禁
作業スペースに限らず、誠勝は土足厳禁です。スキャニング担当のみならず全社員、例えお客様でもオフィスに入る際は靴の履き替えをお願いしています。勿論これを書いている私の足も靴下のみ…あ、大体他のスタッフはスリッパですが。
理由は当然、書籍への汚れや土の付着を防止するためです。いつ、どんなタイミングでお預かりした書籍に汚れが付くのか分からないので、可能性は徹底的に排除しています。
ちなみに余談ですが、この靴を脱いで仕事をするというのは結構快適です。日本人は家で靴を脱ぐのが当たり前だからか、裸足になると無意識にリラックス出来てしまうのかもしれませんね。社会人と言えば男性は革靴、女性はパンプスが多いと思いますが、どちらも足を締め付けるタイプの履物でなかなかストレスが溜まるもの。皆さんの会社でも『土足厳禁』を取り入れたらお仕事が楽しくなるかも!
② マニュキア/指輪禁止
意外に思うかも知れませんがスキャニング担当の9割は女性です。年代別に見ても20代が中心ということで、最もオシャレに敏感なお年頃ですが勤務中は色々我慢してもらっています。
書籍の電子化は慎重に1ページずつめくったり、送られてきた段ボールから壊さないよう出すという慎重な作業が日常茶飯事。
もしとがった爪でページを破ったりしてしまったら?
指輪の部品が書籍の間に挟まってしまったら?
ラメが紙にこびりついてしまったら?
ということで、指先のオシャレであるマニュキア、アクセサリなどの着用は原則禁止となっています。
③ 蓋の無い飲み物禁止
衣・住に制限があるので流石に食くらいは好きにさせてあげたいところ。しかし残念ながら、飲み物にも厳密なルールがあります。
私は小学生の頃、友人に借りたドラゴンボールにジュースを思いっ切りこぼしてしまったことがあるんですが、まさに同じような事故がそのままスキャンの現場でも考えられます。だから一般的な缶(イージーオープンエンドと呼ぶそうです)の持ち込みはNG。
缶以外でも、紙コップなど蓋の無い飲み物は原則飲めません。紙の多い現場に液体は御法度ですね…!
④ 音楽禁止
電子書籍化=データ化なので、基本的にはスキャナーとPCを駆使して作業する形となります。
最近はプログラマー等、黙々と作業するワーカーがイヤホンを着けながらコーディングする事も当たり前になってきましたが、
同じもくもく型でもスキャニング担当は着用禁止となっています。
スキャニングした書籍のデータにミスやズレが無いか、ページは飛んでいないかといった確認・校正作業に大きな影響が出てしまいますからね。
音楽好きは多いものの、かかっていると集中できないというスタッフもおり中々難しいところです。
但しオフィスではAmazonプライムを介したストリーミングで音楽をBGMとして流しており、完全に無音の中で作業している訳ではありません。
⑤ 日光はシャットアウト
誠勝のオフィスは4Fと5Fにあります。しかも窓は東側と南側を向いており、日当たり的には最高の階層&間取りですが…
万が一お預かりした書籍が日焼けしたり、スキャニングする際に光で画像の色味が変わってしまうと大変なので一年中ブラインドが下ろしてあります。年に一度大掃除の時に開ける程度、普段は昼なのか夜なのかわからないくらい外の光が入りません。
これから春先にかけて太陽が気持ちいい時期に入りますが、ひなたぼっこも我慢…
⑥ 袖の長いセーター/ラメのある服は控える
こちらは禁止までいきませんが。
セーターのように毛やホコリが落ちやすい衣服もなるべく控えてもらっています。
そのままスキャンで使用しているスキャナーは非常に高解像度の電子化にも対応出来るため、誤って書籍に紛れてしまった僅かなホコリや毛玉もくっきり写ってしまうんです。
そうなったらスキャンはやり直しになりますし、書籍を汚したりゴミを挟んでしまう可能性があります。
絶対ダメ!ではないけど、作業する時は気を付けてもらっています。毛の飛ばないシャツやポロシャツ系の服装が理想的です。
⑦手袋禁止
某なんとか鑑定団では、鑑定士の方が物品を見る際必ず手袋をしてますよね。これまで散々大切な書籍が~と言っておきながら手袋を何故着けないのか?
手袋をすると指先の感覚が無くなります。そうすると繊細な作業が出来なくなり、例えばページを誤って破いてしまう可能性が出てしまうんです。そのため意外に思うかもしれませんが、スキャンを行う時は入念に手洗いをした後必ず素手で書籍を扱うようにしているんです。
いかがでしたでしょうか?高品質で正確なデータを納品する為、そしてお預かりした貴重な原本を汚さない為に、スキャニング担当はじめそのままスキャンの従業員は様々な制約の下業務に当たっています。
『なにこれ大変そう…』と思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、余計な物や心配を排除し極力シンプルにすることで時間短縮や業務の効率化に成功しています。お客様・スタッフどちらにとってもメリットがあるルールなのです。
これからルールが更に増える可能性はありますが(汗)、より質の高い電子化を追求し、同時にスタッフにも気持ちよく働いてもらえるような改革を続けていければと思います。